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執筆者の写真writer sannou.kaori

たった1行のコピーが人生を変えることもある。

先日、広告制作会社勤務のWebディレクターである夫と「好きなコピー」の話を肴に夜中まで延々飲んだ。

なんでも夫の会社のチームで、「好きなコピー10選」をリモートで発表し合う、というのをやって盛り上がったとのこと。


「あなたは何を10作選んだの?」

「このコピー、懐かしいね」

「やっぱりこれいいなぁ」


なんて、そんな話を延々と……。

これがめっちゃ楽しかったのだ。


私と夫が1位に挙げたのは、サントリー山崎12年の


 何も足さない

 何も引かない


有名すぎるが、やっぱりこのコピーは名作だなと思う。

シンプルだけど、深い。

シングルモルトウイスキーであること、ピュアであること、良いウイスキーであること、ストレートで飲んでほしいこと、すべてがこの2行で伝わってくる。





それから、夫が選んだ10本の中の1本で、「改めていいよね~」と思ったのが、伊勢丹の


  恋が着せ、

  愛が脱がせる。


これもたった2行で、ぞくぞくする。それに、なんておしゃれなんだ!

新しい服を買ったら私も素敵な恋ができるかもしれない。

お化粧もしたいし、バッグも靴も欲しい。きれいになりたい。

そんなふうに女性の心を揺さぶるコピーだ。

「愛が脱がせる」は、その恋の本気度もわかるし、女性にとっての「服」とは何ぞや、ということも感じさせてくれる。

楽しみであり、味方であり、武器であり、最後の砦!


夫とあーだ、こーだと言い合っていたら楽しくて、お酒が進んだ。そして思い出した。


私には、人生で忘れられないコピーが2つある。

詠み人知らず、ではないけれど、誰が書いたかわからないものだ。


1つは、大学生の頃、映画でも観ようとレンタルビデオ店にビデオを借りに行った時のこと。

その店は店員が上手なPOPを付けていて、その時も目立つように貼り付けられた、あるPOPの文字が目に入った。


   これからこの作品を観る人がうらやましい!

   あのラストの感動をこれから味わえるなんて。


POPが付いていたのは、チャップリンの「街の灯」だった。

すぐさま手に取り、レジへ向かった。

帰宅して観終わった時、このPOPコピーの言葉がもう一度胸に深く響いた。

本当にうらやましい!これからこの作品を観る人が!!

私もそう思った。


これまでも好きな本、好きな音楽、好きな映画などに感動した時、いつも心にあった感情。

それをピタリと言い当ててくれたコピーだと思う。


もう1つは、大学卒業後も塾講師のアルバイトを続けながら、小説を書き散らして、酒ばかり飲んでふらふらしていた時のこと。

ある日、突然、「このままじゃダメになる!何かしないと!」と思ってコンビニへ走り、転職情報誌「とらば~ゆ」を買ってきた。


その中に見つけたのだ。

駅のホームで旅行鞄を持ったスーツ姿の女性(顔は見えない。確か胸から下だった)の写真と共にこんなコピーを。


   ちょっと出張行ってくる。


それは、あるサービス業のチェーン店の社内報制作スタッフ募集の記事だった。全国にある店舗をつなぐ社内報を作ってほしい、未経験もOKだと書かれている。


これだ!と思った。すぐに履歴書を送った。

結果的に言えば、正社員募集なのに、私の「フリーでやりたい」という無茶な要求をのんでもらい、制作スタッフとして採用されることになるのだが、それはまたいずれ何か別の機会に書こう。


何にしろ、このコピーが私の運命を変えたことは間違いない。

私が25年もフリーライターとして生活できているのも、すべてはこのコピーから始まったのだ。


コピーというのは、時としてこんなふうに、人の運命を左右する力もある。



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