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執筆者の写真writer sannou.kaori

もうひと手間の愛情  ~連載日本酒コラムより

2016年2月、日本酒業界誌『酒蔵萬流』の取材で静岡県焼津市にある磯自慢酒造を訪ねた。


関西にはあまり流通していないので、頻繁に飲んでいた酒ではなかったが、「美味しい酒」という印象は昔からあった。

2008年の北海道洞爺湖サミットで同蔵の「純米大吟醸35(中取り)」が乾杯酒に採用されたことも記憶に新しい。また、「蔵が冷蔵庫になっている」といった噂も興味深く、ぜひこの目で確かめてみたいと思っていた。


その日は蒸しから取材がスタートし、放冷、製麹、洗米、浸漬といった一連の作業に加え、寺岡社長自ら酵母を培養するところまで見せていただいた。

「蔵が冷蔵庫」は噂通りで、仕込みや上槽はオールステンレスの冷蔵室で行っている。最近では珍しくないが、これを30年近く前から全国に先駆けてやっているのだから、その挑戦心はやはりすごい。

洗米機や甑など醸造設備にも徹底的にこだわり、さらに、米を運ぶのは竹製の箕(み)を使用、醪袋は搾る15日前から毎日洗い続けるなど、道具1つ1つにも妥協を許さない。


ただ、数々のこだわりの裏にはそれを支える強い想いがあった。それは寺岡社長のこの言葉に表れている。


「これでいいかと思わずに、そこからもうひと手間かけてあげることが大切。このもうひと手間の愛情が、酒になった時に必ず差になる」。


取材の前夜、焼津の駅前にある居酒屋で、安価な「磯自慢 本醸造」を飲んで驚いたことを思い出した。それはしみじみと旨く、確かに“もうひと手間の愛情”が感じられたのだった。

「磯自慢」は精米歩合50%以下のお酒が多く、手に入りにくいレアな高級酒も造っている。だけど、安価なランクのお酒がハッとするほど美味しいことが、「磯自慢」の本当のすごさなのではないかと私は思っている。

※このコラムは、浅野日本酒店様からのご依頼で連載していたものに許可をいただき、加筆・修正して掲載しています。(連載:2016年5月)

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