縁あって、2014年4月の創刊号から『酒蔵萬流』という業界誌で酒蔵紀行や酒場めぐりの記事を書かせてもらっている。
元々、年間100種類近く家で日本酒を飲み、趣味で唎酒師の資格も取得するくらい日本酒が好きだった私は、この仕事の話に嬉しくて舞い上がった。しかし、ライター歴は長く、いろんなものを書いてきたという自負はあるものの、果たして本当に自分の力が日本酒のプロたちへ通用するのか?という不安もあった。
最初に取材させてもらったのは、「雪の茅舎」という酒を醸す秋田県の蔵だった。凛とした美しさ、明るく活気のある釜場、清潔な秋田杉の麹室、高橋杜氏の重みのある言葉・・・。
何もかもが私の心を打ち、取材の途中から“早く書きたい!”と思いが溢れた。
そして、仕込みタンクを覗かせてもらったとき、私の中で何かが弾けた。
そこはまるで宇宙だった。
微生物たちの淘汰されていく生存競争、ひたむきに成長しようとするパワー、神秘的な生命の力……。
醪(もろみ)を見たことは初めてではなかったが、丁寧に1つ1つの工程を見ながら話を聞き、杜氏の酒造りへの想いを知った後に見ると、確かに“宇宙”を感じたのだ。
それからしばらくの間、寝ても覚めても、あのタンクの中の宇宙のことを考えていた。
仕事をしていても思い出す。寝ていても夢を見る。ああ、私は完全に魅せられてしまった、と思った。
日本酒の世界がどんなに奥深くても、ずっと関わっていたい、絶対に書き続けると誓ったのはその時だ。あのタンクの中の宇宙のことをもっと知りたい。あの宇宙を造る人たちの想いを書いていきたいと強く思ったのだ。
あれからいくつも蔵を巡り、酒造りも経験させてもらった。知り合いの田んぼを手伝って、田植えも稲刈りも経験した。けれど、関われば関わるほど、宇宙の謎は深まるばかり。
だから日本酒は面白い。だから、飽きることがない。
※このコラムは、浅野日本酒店様からのご依頼で連載していたものに許可をいただき、加筆・修正して掲載しています。(連載:2015年11月)
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