初対面の人に「日本酒のことを書いている」と言うと、ほぼ100%こんなことを聞かれる。
「一番好きな(美味しい)お酒って何ですか?」
・・・困る。
“一番”って言われても、あれも美味しいし、これも好きだし、合わせる料理によっても美味しさは変わるので1つには絞れない。
苦肉の策で「“最近”飲んだ中で美味しかったのは……」といくつか答えるようにして、この質問をなんとか乗り切っている。
この間も答えていてふと思ったのだが、私は20年以上日本酒を飲み続けているので、その時期(年齢)によって「ハマっているお酒」が異なる。
すっきりしたキレの良いお酒、フルーティーな香りのお酒、米の旨味しっかりのお酒、キュートな甘味のあるお酒……などなど、好みは移り変わっている。だから、その時々で、よく飲むお酒のラインナップもガラッと変わるのだが、この15年ほど、“最近飲んで美味しかったお酒”の中に必ず入っているお酒が1つだけあることに気づいた。
静岡県の土井酒造場「開運」だ。
「開運」だけはベスト1にはならなくても、常にベスト3には入っている。
日本酒に限らずどんな商品でも、品質を「維持」しているだけでは、いつか消費者に飽きられてしまうものだ。
以前、こんな話を聞いたことがある。「とらや」の羊羹がいつの時代も愛され続けるのは、味を「変えていない」のではなく「時代に合わせて少しずつ変えている」からだと。
ロングセラー商品は、必ず品質をアップさせている。だからこそ、いつまでも「変わらない美味しさ」だと評価され、愛され続けるのだ。
そう考えると、この数年の間にも日本酒全体のレベルが全体的に上がって、飲みたいお酒がいっぱいあるにも関わらず、私が15年間も毎年必ず手に取ってしまい、変わらず美味しいと思えるということは、土井酒造店さんが時代に合わせて少しずつ味を変化させ、品質を向上させているからなのだろう。恐るべし「開運」!
もしかしたらこういうお酒こそが自分にとっての“一番”と言っていいのかもしれない。
次に誰かにあの質問をされたら、この話をしてみようかなと思っている。
※このコラムは、浅野日本酒店様からのご依頼で連載していたものに許可をいただき、加筆・修正して掲載しています。(連載:2015年12月)
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