2020年のお正月、私は初めて実家の家族と「日本酒で乾杯」した。
実は、私の両親も姉もアルコールに弱く、日本酒どころかビールもワインも口にしないため、子供の頃から今までお正月でさえ日本酒で乾杯することなど一度もなかった。
(そんな家族の中でなぜ私のような酒飲みの人間が生まれたのかは謎だ)
それが、2019年の12月、姉に「仕事で中野酒造の『ちえびじん』の裏ラベルのコピーに携わったよ」と話すと、驚くことに全く飲めない姉が「そんならお正月にそのお酒持ってきてよ。みんなで飲もう」と言ったのだ。
ちょうどお正月にぴったりの酒があった。
「ちえびじん 純米大吟醸 彗星 おりがらみ 生酒」
表ラベルは紅白市松模様で、晴れの日に乾杯してほしいと造られたもの。
約束通りそれをお正月に実家へ持っていくと、皆が瓶を興味深そうに見た。そして、両親、姉夫婦、20歳になったばかりの姪っ子、私の夫、私、という7人が盃に少しずつ「ちえびじん」を注ぎ、乾杯をしたのだ。今年も良い年になることを願ってーーー。
飲めるのか、受け入れられるのか心配だったが、日本酒などほぼ口にしたこともない姉が盃に顔を近づけ、最初に「いい匂い!」と言った。
そうだよ、美味しい日本酒は「いい匂い」なんだよ・・・。皆のファーストインプレッションがポジティブなものであったことに、私は喜びを隠せない。
両親も姉も体質的に飲めないので、舐めるようにちょこっと飲んだだけだったが、口々に「おいしい」と言ってくれた。
「私が知っている日本酒とは違う。これなら飲める」という言葉にも、山王家始まって以来の「日本酒で乾杯」にも、私はただただ感動していた。
さらに嬉しかったのは、普段は日本酒を飲まないお義兄さんが、「ちえびじん」が美味しかったからと、家にあった貰い物の日本酒(ずっと置いていた)を開封したと、後日、姉から連絡が来たことだった。
常日頃、日本酒を飲まない人たちにどうすれば飲んでもらえるのかを考えてきたが、「日本酒のイメージを変えればもっと飲んでもらえるはず」という漠然とした思いは、義兄の行動によって確信に変わった。美味しい日本酒に出会えれば、飲む人は増えるのだ。
ただ、残念なことにお義兄さんの開けた日本酒は・・・常温で長い間放置されていたらしく、「ちえびじん」とは似ても似つかないものと化していたそうな・・・。
そしてもう1つショックなことに、この日本酒が「自分の知っている日本酒」だと言われてしまった。つまり、真夏も超えた長期常温放置の「老ねた香り」の日本酒こそが、姉やお義兄さんのイメージ通りの「日本酒」だったのだ。
そりゃ、そんなものを積極的に飲むはずがない。でも、これが世の中の多くの人が持つ「日本酒」に対する認識なのだろうと実感。
いろいろなことを考えさせられた2020年のお正月。
美味しい日本酒に出会えれば、飲む人は増える。
そのことを確信できたことはよかったし、何より家族と初めて「日本酒で乾杯」できたことが嬉しかった。
来年のお正月もまた、必ず美味しいと言ってもらえる日本酒を持っていこう。舐めるくらいでも構わない。日本酒で乾杯するのだ。
そうそう、お義兄さんへのお土産も1本忘れずに。

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